大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 平成12年(ネ)2861号 判決

控訴人 中實

他2名

右三名訴訟代理人弁護士 中村雅男

右同 石田道明

右同 髙柳眞彦

右同 榎本久司

被控訴人 住友海上火災保険株式会社

右代表者代表取締役 植村裕之

右訴訟代理人弁護士 児玉康夫

右同 松村太郎

主文

一  本件控訴をいずれも棄却する。

二  控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実及び理由

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人ら

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人は控訴人中實に対し、一五三一万一九二〇円、控訴人中正則に対し、五一五万二二一〇円、控訴人中祥浩に対し、五一五万二二一〇円及びこれに対する平成一〇年九月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人の負担とする。

4  仮執行宣言

二  被控訴人

控訴棄却申立て

第二事案の概要

本件は、控訴人中實の妻中貴美枝(以下「亡貴美枝」という。)が普通乗用自動車を運転中、衝突事故を起こし、同人及び同乗していた長男中崇之(以下「亡崇之」という。)が死亡した事故に関して、控訴人亡貴美枝及び亡崇之の相続人である控訴人らから、亡崇之が記名被保険者として契約していた自動車総合保険契約に基づき、保険会社である被控訴人会社に対して保険金請求をしたところ、被控訴人会社から、右保険契約には運転者家族限定特約が付されており、本件において被控訴人会社が保険金の支払義務を負うのは、右自動車の運転者が記名被保険者である亡崇之であるか、亡崇之の「同居の親族」に限定されているが、亡崇之は両親である控訴人中實及び亡貴美枝のもとから転居して生活しており、亡貴美枝とは経済的にも生活上も別であるから、亡貴美枝は亡崇之の「同居の親族」に該当しないとして支払を拒否されたため、これを争い、右保険契約に基づき保険金の支払請求等をしている事案である。

控訴人らは、亡崇之は、勤務先への通勤・仕事の便宜から、それまで生活していた控訴人らの肩書住所地の千葉市花見川区検見川町《番地省略》の実家を離れ、川崎市宮前区宮前平《番地省略》レクタングル宮前平三〇五号室を借りて生活していたが、亡崇之は、検見川町の実家において父母の家族の一員としての生活実態を保持していたから、検見川町の実家も亡崇之の生活の本拠である住所であり、そこにおいて生活していた亡貴美枝は亡崇之の「同居の親族」に該当すると主張している。

これに対して被控訴人会社は、亡崇之は、平成八年四月から右宮前平のマンションに居住し、住民票も同所に移しているから、亡崇之と前記被害車両である保険車両(以下「本件自動車」という。)につき締結した自動車総合保険の運転者家族限定特約条項における亡崇之の住所は右宮前平のマンションの所在地であり、検見川町の実家は、亡崇之の住所ではないから、右マンションにおいて亡崇之と同居していない亡貴美枝は、記名被保保険者の亡崇之の「同居の親族」には該当しないと主張している。

当事者双方の主張は、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」中の一及び二に記載のとおりであるから、これを引用する。

原判決は、亡崇之の住所は右宮前平のマンションの所在地であり、亡貴美枝は右住所において亡崇之と同居していないから、前記保険契約における「同居の親族」に該当しないとして控訴人らの請求を全部棄却した。

これを不服とした控訴人らは本件控訴を提起し、その理由として、原判決には検見川町の実家を亡崇之の住所と認めなかった点において事実誤認があるなどと主張している。

本件の主要な争点は、亡貴美枝は、亡崇之が被控訴人会社との間で締結した自動車総合保険における運転者家族限定特約条項にいう「同居の親族」に該当するか、否かである。

第三当裁所の判断

当裁判所も、控訴人らの請求は理由がないものと判断する。その理由については、次に記載するほかは、原判決「事実及び理由」欄の「第二 事案の概要」中の「三争点に対する判断」に記載のとおりであるから、これを引用する。

亡崇之が被控訴人会社との間で締結した自動車総合保険契約には、被控訴人会社が保険金の支払義務を負うのは、本件自動車の運転者が、記名被保険者である(亡崇之がこれに当たる。)ほか、右記名被保険者(亡崇之)の「同居の親族」に限定するとされる旨の運転者家族限定特約条項(以下「本件運転者家族限定特約条項」という。)が付されているところ、控訴人らは、亡崇之は、勤務先への通勤・仕事の便宜から、控訴人らの肩書住所地の千葉市花見川区検見川町の実家を離れ、前記宮前平のマンションを借りて生活していたが、右マンションの家具等の生活必需品はできるだけ少なくし、多くの身の回りの家具及び衣類等は実家に置いたままであり、週末は実家に帰宅することが多く、両親である控訴人中實(父)及び亡貴美枝(母)、兄弟である控訴人中正則及び中祥浩並びに祖父と生活を共にしていたのであり、また、亡崇之は本件自動車及び他の車両を所有し、いずれも被控訴人と自動車総合保険契約を締結していたが、その住所はいずれも右検見川町の実家所在地としていたほか、実母である亡貴美枝は、しばしば右マンションを訪れ、洗濯をしたり食事を作って冷凍保存するなどし、右マンションを訪れた際は同所に寝泊まりし、本件自動車をも利用するなどしていたこと、亡崇之はコンピュータ関係の仕事をしていたため、研究費等の出費がかさみ、実父である控訴人中實から毎月四、五万円の生活費の援助を受けていたこと、亡崇之は、従前は両親である控訴人中實及び亡貴美枝らと検見川町の実家において生活を共にしていたのであり、右宮前平のマンションに転居した後も、生活上も経済的にも検見川町の実家において父母の家族の一員としての生活実態を保持していたなどとして、そこにおいて生活していたとする事実などを挙げて、これを亡崇之にとって検見川町の実家も生活の本拠たる住所地であり、亡貴美枝は亡崇之の「同居の親族」に当たるとの主張の根拠としている。

しかしながら、本件運転者家族限定特約条項は、記名被保険者と身分的・経済的に一体性が強く、被保険自動車の使用頻度が高いと考えられる一定範囲の親族に被保険者の地位を与え、かつ、これに限定したものと解すべきであるところ、亡崇之は平成二年三月に大学を卒業し、就職後も検見川町の両親らの住む家に同居し、そこから通勤していたが、平成八年四月に川崎市内の研究所に異動となったため、右宮前平のマンションを賃借し、同月から右マンションにおいて居住し、また、本件自動車も川崎市内の駐車場を借りて駐車し、亡崇之がもっぱら利用していたのであり、その生活状況も、勤務先から手取約二〇万円の給料のほか、毎月七万円の家賃補助を得て、家賃、共益費及び駐車場の賃料等毎月約一三万七七五〇円を出費して生活していたのであるから、右検見川町の実家に住む両親(控訴人中實及び亡貴美枝)とは完全に独立した生活をしていたものというべきであり、亡崇之の本件運転者家族限定特約条項の住所は右マンションの所在地であるというべきである。確かに、亡崇之の右マンションにおける家具等の生活必需品は少なく、多くの身の回りの家具及び衣類等は実家に置いたままであり、週末は両親である控訴人中實及び亡貴美枝、兄弟である控訴人中正則及び同中祥浩らが居住している実家に帰宅することも多く、また、亡貴美枝も、月一、二回は右マンションを訪れ、亡崇之の衣類等を洗濯したり食事を作って冷凍保存するなどし、同所を訪れた際、同所に寝泊まりし、本件自動車も利用し、亡崇之もコンピュータ関係の仕事をしていた関係で研究費等の出費もかさむため実父である控訴人中實から毎月四、五万円の生活費を援助されていたが、こうした事実は、両親である控訴人中實及び亡貴美枝とは別個独立して生活していた亡崇之が、時々は親元に行くことがあり、控訴人中實及び亡貴美枝も成人で両親とは独立して生活している亡崇之の生活上の手伝い等をしているにすぎないのであり、別居して独立の生活を送るようになった成人の子と両親との間にも、親子のきずなは切られず交流を続けることは珍しいことではなく、亡崇之及びその母亡貴美枝の場合もそのような関係にあったと推認されはするものの、こうした親子の交流関係があるからといって、亡貴美枝が本件運転者家族限定特約条項上の被記名保険者、すなわち亡崇之の「同居の親族」であるとすることはできない。

以上によれば、亡崇之の住所は右検見川町の実家ではなく、右宮前平のマンションの所在地であり、右マンションにおいて亡崇之と同居していない亡貴美枝は本件運転者家族限定特約条項にいう亡崇之の「同居の親族」に当たらないことになるから、控訴人らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、いずれも理由がないことになる。

第四結論

よって、控訴人らの請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 伊藤瑩子 裁判官 鈴木敏之 秋武憲一)

〈以下省略〉

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例